アロマセレクト ブログ
これまでのブログで何度か記載しましたが、アロマセレクトでは富山大学さんと共同で、GC(Gas Chromatography:ガスクロマトグラフィー)、通称・ガスクロという手法を用いて精油の成分分析を行っています。
簡単な原理について、以前にブログで記載しましたが、もっと詳しく知りたいという方も多数いらっしゃいます。
そこで、本日はもう少し分かりやすく解説したいと思います。
ガスクロマトグラフィーの結果
まずは、ガスクロマトグラフィーの分析結果の生データをご覧ください。
横軸が時間、縦軸(軸は見えませんが)が成分量です。
縦軸の成分量は何となく意味も分かるかと思いますが、横軸の時間って何だ?
横軸の時間は、ガスクロ装置内部で、ヘリウムガスの中で、気化した精油を構成する各成分が検出部分に到達した時間です。
はい、ますます訳がわからなくなりましたね。
そこで、これらを解説するために、ちょっとした実験を行いたいと思います。
ペーパークロマトグラフィー
ガスクロマトグラフィーがどういう原理かというのは、装置の内部を見るわけにもいかないですし、仮に装置の内部を見たところで残念ながらわかりません。
液体の精油を気化させた状態で成分分析をしているのです。気化した精油は目で見ても分からないでしょう。
気化した精油だって私の目で見えるぜ! 俺の目で見えるぜ!という強者もいるかもしれません、実際に分析に必要な精油としてガスクロマトグラフィーの装置内に入れる量はほんの1μl(マイクロリットル)です。1ml(ミリリットル)の1000分の1です。
そこで、目に見えるように、同様の原理の簡単な実験を行ってみました。
今回紹介する実験はペーパークロマトグラフィー(paper chromatography)と言います。
小学生の夏休み自由研究で実験した人もいるかもしれませんね。ガスクロも原理的には、このペーパークロマトと同じです。
とにもかくにもペーパークロマトで実験を行ってみましょう。
何の実験かは、後ほど説明しますね。
まずはペーパークロマトで使用する実験道具はこちら。
1.スタンド
2.小皿(水入り)・・・正確には、シャーレという容器です
3.水性マジック(緑色と黒色)
4.コーヒーフィルター(名が細い長方形に切り取ったもの)
5.セロテープ
今回の最終的な目的は、ガスクロの原理を知ってもらいたいことではありますが、今回のペーパークロマトという実験そのものの目的は
緑の水性マジックと黒の水性マジックがそれぞれどんな色の成分が混ざり合っているのかを調べることです。
では、早速実験開始。
まず、コーヒーフィルターの端に緑の水性マジック、黒の水性マジックでちょこんと印をつけます。
ほんのちょっとだけで良いです。
今回は直径1~2mm(目測)の印をつけました。
次に、インクを付けたコーヒーフィルターをセロテープを使ってスタンドに固定します。
向かって左側が緑インクの付いたコーヒーフィルター、右側が黒インクの付いたコーヒーフィルターです。
そして、コーヒーフィルターの下の方から水を吸収するように、水を入れたシャーレを設置します。
コーヒーを日常的に淹れている方は分かるかと思いますが、コーヒーフィルターは水をよく吸収しますね。
コーヒーフィルターの下部に水をちょっとつけてすぐに撮影をしたつもりでしたが、早くもインクの位置まで水を吸収してしまいました。
このまま放置しておくと、コーヒーフィルターが徐々に水を吸い上げていきます。
ということでしばしこのまま。
そして、数分後の写真がこちら。
水を吸い上げていくうちに、マジックのインクも水に引っ張られて同じ方向に吸い上げられていきます。
さて、この吸い上げられるインクを見てみてください。
向かって左が緑のインク、右が黒のインクですが・・・
成分によって進行速度が異なる
緑のインクは青と黄色に分かれてしまいました。
黒のインクはなんだかよくわかりませんが、何となくピンクとオレンジとダークな色に分かれているような気がしますね。
緑のインクの場合で考えてみましょう。
緑の成分を構成しているのはどうやら、青の成分と黄色の成分のようです。
これらは水に吸収されて進むスピードが異なるため分離したのです。
黄色い成分はスピードが速いようですね。どんどんと先へ進んでしまいました。
さて、黒のインクの場合はどうでしょうか。
ピンクの成分が一番スピードが速いように見えます。
次にオレンジでしょうか。
しかし、全体的に進行スピードが遅いので、まだきちんと分離しきっていないように見えますね。
黒インクはもう少し待ってみましょう。
さらに待つこと約10分ほど。
さきほどよりもずいぶんと見やすくなりました。
ピンク、オレンジ、黄色、水色(?)に分離しているように見えます。
進行スピードの順番に
ピンク > オレンジ > 黄色 > 水色
といった感じでしょうか。
黄色も水色(青?)も、緑インクのものに比べると進行スピードが違うようですね。
黄色は黄色でも、緑インクと黒インクに含まれる黄色成分は異なるのでしょう。
これは何度やっても同じ結果になります。
もとの成分である黄色、青あるいはピンクやオレンジといったものは、水の中での拡散スピードが異なるため、分離することができました。
こうして、緑と黒の各インクが何色で構成されているのかが分かりました。
ガスクロとの対比
ここで、ガスクロマトグラフィーにも再度登場してもらいましょう。
次のように置き換えてみてください。
インク → 精油
水 → ヘリウムガス
ガスクロの装置は分析したい精油を入れる入口があります。
そして、ヘリウムガスとともに成分が進んでいく通り道である細い管があります。
そして管の終わりに検出器があります。
1マイクロリットルの精油をガスクロ装置の入口から抽出すると、精油成分は装置の出口に向かって進んでいきます。
入口は高温になっているので、精油は気化して進んでいきます。
しかし、気化した精油の成分は、それぞれ進行スピードが異なるのです。
α-ピネンは進むのが速いですが、リナロールはちょっと遅いです。
成分ごとによって決まったスピードがあるため、出口に到達するころには各成分に分離されてしまいます。
もう一度、クロモジの結果を見てみましょう。
冒頭で説明した横軸の時間というのは、装置の出口で成分が検出された時間ということだったのです。
左の方からα-ピネン、カンフェン、β-ピネン等々を手書きしているのがわかるでしょうか。
出口に早く到着した順に検出されたという意味なのです。
そして、各成分が三角形で表示されているのがわかりますね。
三角形の面積が成分の量を表しています。
早くに出口に到着した成分はシャープな三角形になっていますね。
遅くに出口に到着した成分は横に広がった三角形になっていますね。
スピードが遅い成分ほど、検出器到着するころに若干広がってしまっているということなのです。
さて、ここまででガスクロの大まかな原理は分かりましたでしょうか?
実は、これだけでは成分が何かということは実は分からないのです。
説明をはしょってしまっています。
どこをはしょったかお分かりでしょうか?
サンプルと比較して初めて成分が分かる
クロモジのガスクロの結果をもう一度、出します。

正真正銘生データ(クロモジ)
こちらが、本当の生データです。
何かしらの成分に分かれていることはわかりますね。
けれど、これだけでは、先ほどの手書きのように8番付近の成分がα-ピネンだとは分かりません。
※ちなみにグラフの中の番号は検出された成分の順番に1から番号を付けているだけです。三角形が見えなくても、ほんのわずかに何かしらの成分が検出されています。あるいはノイズの可能性もあります。
さて、どれがα-ピネンで、どれがリナロールなのでしょうか。
このグラフを見ただけでは、まったくわかりません。
あたかもガスクロ装置に精油を入れただけで、成分が全て分かってしまうように思ったかたもいるかもしれませんが、そうではありません。
標準サンプルとの比較
成分ごとに進むスピードが異なるということは、同じ成分であれば進むスピードが同じである、ということです。
つまり、どのような成分が含まれているのかあらかじめ予想をしたうえで、様々な成分をあらかじめ測定してグラフを作っておく必要があるのです。
有名な物質であれば、純度の高い物質が薬品会社で販売されています。
リナロールは通常に販売されています。
その他の物質も販売されているものが多くあります。
中には固体のものもあります。
固体の成分であっても、精油の中では他の成分に溶ける形で液体として存在しています。
固体の場合は、アセトンという物質に溶かして測定します。
そしてあらかじめ測定しておいたグラフと見比べて購入したサンプルと同じ位置に検出されていれば、それと同じ成分が含まれていると判断するのです。
判断の仕方は、グラフを重ねて光に透かして見ています。
意外と原始的ですね。
一生懸命、蛍光灯やLEDの方に向けてみたりして、一生懸命透かそうとしています。
予測が重要
とは言え、どのような成分が含まれているのかなんていうのはなかなか分かるものではありません。
様々な書籍や論文あるいはデータをもとに、およそ、どのような成分が含まれているのか予測します。
予測した上で、サンプル品を購入して事前に測定しておくのです。
また、予測される化学成分に類似の構造をした成分も含まれている可能性は高いと判断します。
そのように予測に予測を重ねて、様々な種類の成分を購入しておくのです。
(外れてしまった場合は、その成分が含まれていないという結果が分かる・・・というちょっと寂しい事態になります)
合成もしちゃいます
サンプル品として販売されていないものも多々あります。
そのような場合、どうするかと言うと、富山大学さんにて合成してもらいます。
実験室で、材料を混ぜて熱してを繰り返して目的の物質を合成してもらうのです。
すぐに合成できるものもあれば、何日もかかるものもあります。
合成するには様々な知見が必要ですので、そこは専門家にお任せで。
その努力の結果、その成分が含まれていないという結果も待ち受けています。
化学者もなかなかに大変な職業なのですね。
ちょっと休憩
さて、グラフの中の左の方にアセトンという文字があることに気づいた方もいるかもしれませんね。
ちょっと休憩がてら、このアセトンについてお話します。
アセトンは精油には含まれていません。
上記で固体を溶かすためにアセトンを使用するということを書いております。
その他にも、機器の洗浄にもアセトンを使用することが多々あります。
アセトンは様々な有機物質を溶かすし、気化もしやすいので使いやすいのです。
(有機物質の解説は今回はしません・・・)
アセトンは人工的に混入したものですので、実際の成分比率を計算する際は、アセトンは除外して計算します。
未同定について
精油の成分表をあちらこちらで見ていると、成分がまだ分かっていませんという未同定という言葉によくお目にかかります。
未同定というのは、何かしらの成分が検出されたが、その成分と同一のサンプルを入手しておらず、結局、どういった成分なのか分かっていない、ということです。
様々な予測をもとに、サンプルを購入したり、あるいは合成して比較してみたけれども、なかなか一致しないのです。
そうなってくると、どのような成分が含まれているのか、手当たり次第でトライしてみるか、あるいはさらに予測に予測を重ねて別の成分でトライしてみるか、という手段に出なくてはなりません。
その結果、やはり失敗してしまう可能性もかなり高いです。
未同定の物質を最終的に判別するのは非常に時間がかかる上に、判定にいきつくかどうかも不明です。
ずっと不明のままに終わるものも出てくると思います。
とは言え、10%以上含まれているような主要成分については、なるべく、全ての物質が判明できると良いなと思っています。
実際にアロマセレクトの精油も、主要成分でありながら、どんな成分かわかっていないものも多々あります。
NMRとか
とは言え、分析手法としては最終手段がまだ残っています。
例えばNMR(nuclear magnetic resonance/核磁気共鳴)と言った手法では、成分の構造を解析することも可能です。
相当に専門的な分野になってきますので、アロマセレクトでは、当面はNMRの実験までは行わないと思いますが、もしも実験することがあれば、また結果の報告あるいはNMRの原理も解説したいと思います。
NMRの原理を解説し始めると何回シリーズになることやら。。。。
もはやアロマの分野からかなり外れてしまうかもしれませんが、知れば知ったなりの楽しさはあると思います。
気になる方はインターネットでNMRを検索してみてください。
以上、ガスクロの解説ブログでした。
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